2009年10月19日

雨やどり

雨やどり

改札をでて
あかんぼうをだいたおかあさんが
立ち止まっている

――こまったわね
  やむかしらね

おかあさんは
白い毛糸のぼうしの
あかんぼうに話しかけている

あかんぼうは
おかあさんの顔をじっとみている




『いますぐがいい』より

柿の実が赤くなってきましたね。
柿にどんな時間が流れているのでしょう。

子どものとき、壺井栄の『柿の木のある家』を読んで、
いつか、柿の木のある家に住みたいと思っていました。
それが偶然、借家でしたが、
庭に柿の木が2本ある家に、10年ほど住んだことがあります。
柿の木をみるたびに、ふと、うれしくなっていました。

子どものときの愛読書は、
『秘密の花園』『若草物語』『赤毛のアン』『アルプスの少女』などで、
いつも、その主人公のようになりたいと思っていました。

そのときの講談社の本が、いまも本棚にあります。
背表紙の題の文字が、もう消えそうになっています。
本にも時間が、流れていたのですね。


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2009年09月23日

鈴虫

鈴虫

川苔山から 下山して
鳩ノ巣駅で
電車を まっていた

すっかり 暗くなった
待ち合い所に
灯りがついている

――すずを ふっているのは
  だれなの
  こんなに まっくらなのに

さっきまで
母親のひざで ねむっていた
二歳くらいの女の子が
目をこすりながらいった

母親は
そっと 女の子をだきよせる

夜は 無人になる
小さな駅に
降りた秋

鈴虫が しきりに鳴いている




『また すぐに会えるから』より

原っぱに芒が咲いていました。
秋の顔に出会ったようでした。
 
      はじまりはみな美しき花すすき    よしこ

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2009年06月29日

「わたしの中の家」

わたしの中の家

こんなに遠くに 来てしまった
とおもっていたのに
帰ってきていた
わたしの中の家へ

子どものとき
みえなかったものが
いま みえる

父や母
祖母の
つつましやかな愛

それから 出会えた
やさしいひとたち

――ずっと ここにいてもいいですか

辿りついて
また はじまっていける
わたしの中の家から



「ノート」より

子どものとき、部屋のすみっこに
椅子や座布団などで囲って、
小さなすきまを作るのがすきでした。

じぶんだけの空間に、
すきなおもちゃも運びこむ。
枕もおいて、寝たふりもする。

それから
「ごめんくださいって、あそびにきてね」
みんなに そう言ってまわってから、じっと待っている。

そして、
だれかが遊びにきてくれると とても うれしかった。
じぶんから かくれているのに 待っていたのですね。



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2009年05月16日

「葉桜の下」

葉桜の下

母親のひざに
おんなの子が 
向かいあって すわっている

──おかあさん
  おめめ つぶらないで
  わたしを みてて

おんなの子がいう
ひととき
母親が 
目をつぶったのだろうか

母親は わらいながら
目を 大きくあけて
おんなの子に みせている

それから
ふたりは
舟になって ゆれていく



「ノート」より


葉桜の下にいくと、風がうすみどりのようです。

薫風にシャンプーされしままでいる    よしこ




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2008年11月05日

「ハンカチの時間」

ハンカチの時間


祖母は
ハンカチを洗うと
日の当たる窓ガラスにはる
ぬれたしわを
手のひらで
ていねいに ひろげていく

ハンカチは 
きょう 窓ガラスで
空を見ながら
風の音や
ねこの足音に
耳を澄ます

祖母は
──ハンカチの好きな時間だよ
という

夕方
祖母は 
窓ガラスから
空のにおいのする
ハンカチをわたしてくれた



「ノートより」


子どものころ、窓ガラスに、ハンカチが貼られていました。
どこの家にもある、なにげない風景でした。
日の当たる窓ガラスは、ハンカチをアイロンをかけたように、仕上げてくれるのです。
このことに、はじめて気付いた人は、どんなに感動したでしょう。
むかしの人の知恵だったのですね。
秋はいろいろなことを思い出させてくれます。
手ざわりのある時間、そんな時間があった気がします。

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2008年09月30日

「ふうせん」

ふうせん


おとこの子は
手にもっていたふうせんのひとつを
飛ばしてしまった

ぽかんとしているあいだに
もうひとつのふうせんも
飛ばしてしまった

──いっしょに 飛びたかったのね
そばで 母親がいっている

おとこの子と母親は
いつまでも
空をみあげていた





詩集『いますぐがいい』




澄んだ秋の空をみていると、この母子を思い出します。



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2008年08月02日

ゆかた

ゆかた


夏が近づくと
祖母のゆびは
しゃくとり虫になる

わたしをつかまえると
肩や うでに
しゃくとり虫をはわせる
くすぐったくて
にげだすわたしを追いかけながら

なん日かすると
祖母はだいじそうに
両手にのせてきたものをみせる

――ゆかた

あそんでいるわたしに
服のうえから着せると
にこにことうなずく

祖母に
ぐるりと まわされると
袖から
あたらしい夏の風が
吹きこんできた


 
 
   詩集『いますぐがいい』





子どものとき、祖母に作ってもらったゆかたは、白地に赤い小鳥の模様だった。
とても気に入っていた。
近くの天神さんのお祭に着ていくのが楽しみだった。

夜にならないと露天のお店も出ないのに、早くから出かけ、
お面や、ヨーヨーの店が用意されるのを、じっと見ていた。

夜にはもう ゆかたは どろどろになっていた。
大好きだった綿菓子。今年もどこかの縁日に行きたい!




posted by YH at 15:41| Comment(4) | TrackBack(0) | 詩(家族の風景) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年07月11日

坂道

坂道


母は
家のまえの 坂道を
死んだ父が 上ってくるような
気がするという

私は
家に帰るとき 坂道を
死んだ父が 下りてきてくれるような
気がする

坂道は
じぶんを
どちらから 見つめているのだろう


     
        
   
詩集『レモンの車輪』
 



家は、すでに人手に渡ってしまった。
けれど 坂道はいまもあるはず。
坂道は、わたしたちのことを憶えてくれているだろうか。
7月14日は父の誕生日。パリ祭の日だと笑っていた。

 
     
   
                   梅雨空を一枚めくる夏燕










posted by YH at 08:27| Comment(0) | TrackBack(0) | 詩(家族の風景) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年06月15日

[手」




プラットホームに
孫を見送りにきた おばあさん
列車のまどガラスに
なごりおしそうに
手を くっつけている

やがて
おばあさんを のこして
列車は 発車した

走り去る景色の
まどガラスに
おばあさんの手が
いつまでも
いつまでも ついてきている

詩集『また すぐに会えるから』



 
「じゃあ またね 元気でね」こうして、友人や家族と何回くりかえしただろう。
いつだったか、電車で帰る人を
手を振りながら、電車を追いかけたことがある。

ドアに立っている顔が、少しずつ先にいって、
いっしょうけんめい、こちらをのぞくようにしてくれても、
見えなくなって、
遠く小さくなる。

でも また 会えるのですよね。


     あぢさいの青き時間の通り過ぎ    よしこ






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2008年03月15日

「ふう ふう」

ふう ふう

かぞくのところに
ごちそうが
ゆげをたてて はこばれてきた

おかあさんは おんなのこのを
ふう ふう
とさましはじめた

おとうさんも おにいちゃんのを
ふう ふう
とさましはじめる

ふう ふう
こどもたちも まねをする

ふう ふう
こんな しあわせなことばがあった

詩集 『いますぐがいい』より


家族で食事をする。
こんなひとときに、しあわせがあるのですね。
ふう ふう・・・



posted by YH at 01:35| Comment(2) | TrackBack(0) | 詩(家族の風景) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする